月夜見 “クリスマスまで何マイル?”

〜大川の向こう より

片田舎の町では
今時の流行らしかった“はろいん”とかいうのは
あんまり持て囃されなかったけれど。
その代わりのように“七五三”は外しちゃならぬ祝いごととされ、
該当する年齢の子供がいる家は、
ご近所界隈どころか町中に触れて回るほどもの、
御祝儀やら内祝いやらを配っての、
一大イベント扱いにされる。
今年は小学校へと上がった坊やがいるD家では、
それでなくたって父上が溺愛している次男の祭りごと。
回送業の恐持てのするお兄さんやおじさんたちも総出で、
餅までついての盛大に祝ったもんだから、

 「…お。中洲の王子じゃねぇか。」

大川をまたいだ先、
渡しの艀
(はしけ)の停泊所に間近い商店街に、
小ぎれいな店を構えた洋菓子屋の、
将来楽しみな跡取りが、
マキノさんに手を引かれ、
お買い物に来ていたルフィへと、
そんな気さくなお声をかけている。

「王子ってなんだ?」
「先月、中洲をあげてって勢いで節句を祝った主役のこった。」

別に厭味で言ってるんじゃない。
こちらの中学生のお兄さんは、この春に越して来たばかりだったんで、
まださほど親しさを深めちゃいない坊やだったのだが。
そんな彼一人のために、
町中挙げてという文字通りのお祭り騒ぎで、
七五三を祝っていたのを目の当たりにし、
どれほど人気者なんだと呆れたまでのこと。
そんな会話を耳にして、
あらまあとマキノさんがくすぐったげに笑ったのは、
たまたま今年はルフィ一人しか
該当する子供がいなかっただけの話だのにねぇと、
そんな感慨を胸の中にて転がしたから。
ムキになって抗弁するほどのことで無しと、
口を挟まぬ慎ましさが彼女ならではの性分であり。
今日は回送業の方でのお届けものがあったのを
こっちの取引先へ渡しに来ただけ。
他にはさして急ぐものがあるで無しと、
のんびり歩いていた二人でもあって。
年かさのお友達とのおしゃべりの邪魔にならぬよう、
急かすことなくの子供歩調にて歩みを運ぶ。
そんな彼女へと、
ご挨拶のお辞儀とそれから、
それはそれは晴れやかな笑顔を向けてくださった、
中学生らしき年頃の、金の髪した男の子。
今年できたという小じゃれた洋菓子店は、
中洲の里でも話題になっていたし、
坊やとは幼なじみの小さいお兄さんの家が営むところ、
隠れ名店との噂持つ、某 粉屋さんとの取引があっての、
荷物を運ばぬでもない間柄なので。
派手な見栄えの割に、性根は優しい子だということ、
よくよく知ってもいるものだから。
彼女からすりゃどっちもまだまだ幼い二人の、
どこか一丁前な会話を、
微笑ましいなと眺めておいで。

 「あっ、そーだ。サンジんトコのツイィ、凄げぇデカかったな。」
 「ツイィ? あ、ツリーな。」

まだまだ舌が回り切らない坊やの言い回しへ、
小首を傾げたのも一瞬のこと。
何を言った彼かに想いが至った途端、
うあ、可愛いなこいつと、
甘ったるい声での発音へ、思わずのこと眸を見張りつつ、

 「店の前のやつだろ?
  ありゃあ商売用だからな、
  目立つようにって気張って大きいのを飾ってんだ。」

クリスマスと言えばのケーキも、
こういう小さな町では看板商品に当たるので。
どちら様もが年末の支度へなだれ込む、
そのぎりぎり直前までは頑張らにゃあと。
さすがは跡取り、鼻息も荒い。
とはいえ、

 「あれはデカいがその代わり、
  二階の家のほうにはリースすら飾ってねぇんだぜ?」
 「え? 何でだ?」

そりゃあ意外だと、
心底驚いたらしいルフィが くりくりお眸々を見開いたのへ。
両手がかえにしていたお買い物袋を、
よいせと揺すり上げたお兄さんは しれっとしたもの。

 「だってウチは、浄土真宗だかんな。
  キリスト教の習慣なんてよく判らんってのが爺様の口癖で、
  プレゼントだって買ってもらったこたぁねぇぜ。」

大人たちが総出でギリギリまで忙しいのもあろうけど、
ソバ屋が大みそかすれすれまで忙しいのと同じだよと、
大人みたいなお顔で肩をすくめた、小粋な少年。
その大きなツリーのある店の前まで到着すると、

 「ちょっと待ってな。」

小さな坊やに小声で囁き、
言われずともツリーへ見とれたルフィを残して、
素早く店へと駆け込んでから。

 「…ほれ。内緒だかんな。」

再び出て来たその手には、パンの耳にも似たような、
細長く切られた不揃いのスポンジ生地が詰まった袋。
ケーキを焼いて成型したときに出る耳の部分であり、
自分のおやつにと回されるそれを、
以前、ルフィがいたく気に入っていたのを覚えていたらしい。

 『いいなぁ、
  あんなおいしいケェキの端っこだろ?
  毎日喰えるんか?』

勿論のこと、坊やの側でも覚えてて。
わあとお顔がほころんだのがまた、
そっちこそ甘い甘い砂糖菓子みたいで、

 「ありまとなvv」
 「お、おお、おう。
  こんくらい、なんてこっちゃねぇさ。」

はははと微笑って見送れば、
きれいなお姉さんもまた、肩越しにお辞儀つきで微笑ってくださって。

 「…うわぁ、今日はいい日だぁvv」

買い物に出されてよかったぁと、
のほのほと頬染めた、おませな少年。
早く厨房に行かないとお爺様からどやされますぜ?
(苦笑)




   ◇◇◇


甘い匂いに待ち切れなくなり、
1個だけと約束して早くもチョコ味のを手にしたルフィ坊や。
艀に乗っての帰りがけ、
甲板の舳先の方に見たお顔がいたのへと駆け寄った。

 「ゾロ? 今日はどしたんだ?」
 「おお、お前こそ何だ? 買い物か?」

日曜の昼前だってのに、何で中洲に帰る艀に乗ってんだと、
お互いへと訊き合う二人であり。

 「俺は、なんだ。」

マキノもいることへと眸がいって、
ああお使いだったかと納得がいったゾロの側は、
少々…面白くない御用での帰り道であるらしく。

 「くいながな、人に買い物 押し付けやがってよ。」

子供会の集まりで来週の日曜にクリスマス会があんだろよ。
うんっ。俺も行くぞ、お唄を歌うんだ♪
ジングルベルを歌うんだとにっぱり笑った小さな坊や、
今にも歌い出しそなほどの笑顔だったんで、
それを待つように間をおけば、

 「買い物って何だ?」
 「う……。」

珍しくも流されてくれなかった小さな王子。
きっと気がそれるだろと見越したゾロだったのに、
当てが外れたのがありありと可笑しくて、
マキノが我慢し切れず背中を向けてしまったほど。
しゃあないかと、短く刈られた髪をもしゃもしゃと掻き回しつつ、
小さなお兄さんが口にしたのは、

 「ツリーに提げるオーナメントっていうのと一緒にな、
  今年流行の何とかってアイドルのキーホルダーも売ってたんだと。」

自分で買いに行くのは何だか気恥ずかしいからって、
あの女、人に押し付けやがんのな、と。
表向きは、星やサンタの飾りを買いに行った玩具屋で、
ついでを装い、手に取ったそのキーホルダー。
レジのところにいたバイトのお姉さんがまた、
何をどう勘違いしたのやら、

 『プレゼントかな?』

じゃあラッピングしましょうねと、
わざわざ真っ赤な包装紙で包んでくださって。
タネを明かせば…覚えたての進物包みを、
練習したくてうずうずしていたお姉さんだっただけのこと。
でもでも、こちらの坊やにすれば、
誰が女の子への贈り物かな?と思われたらしいのが、
たいそう不本意でしょうがないらしく。

 「ついぃの飾りかぁ。」

最後のオチはさすがに話さなかったゾロだったものの、
クリスマスなんてもの自体にも関心なんてなかったところへ、
ささやかなれど微妙なお年頃にはアクの強い、
マイナスファクターが加算され。
下手すりゃクリスマスってフレーズが
そのまま逆鱗になってしまいそうな勢いで不貞腐れておいでの模様。

  とはいうものの

そこまでは事情が見えてないルフィ坊やには罪はなく。
それに、そんな風な大人の割り切りには、
いかんせん まだまだ縁のないゾロのはずが。
クリスマスの話題だと素直にはしゃぐのが、

 “………あれ?”

どうしてだろか、
ムッとくる度合いが少しは引いたような?
サンジんトコで凄げぇデッカイついぃ見たんだ、
ゾロの道場でも、去年のあのデカイの飾るんだろ?
俺も俺も手伝うっと、
バンザイまで飛び出すはしゃぎようなのへ、

 「…なあ、ルフィ。」
 「なんだ?」

つい、訊いてみたくなったのは、一体どういう魔が差したのか。

  「お前さ、クリスマスって何の日か知ってんのか?」

あららと、訊かれた本人よりも先に、
その保護者が微妙なお顔をする。
確か確か、去年のクリスマスの前に、
同じ質問を兄のエースからも訊かれていたルフィであり。

 『ん〜っとな、クイスマスはな、サンタさんが生まれた日だっ!』
 『ぶぶーっ。キリストさんが生まれた日だよ。』

自分の誕生日に、
見ず知らずのガキへプレゼント配るよな、
景気のいいおっさんがいるもんかよ。
一丁前な言いようで返した兄へ、

 『う〜〜〜っ、じゃあ何でサンタはプレゼント配るんだ?』

サンタってのは何もんだ?とムキになって訊いたルフィへは、

 『大人んなったら教えてやる。』
 『ずりぃい〜〜〜っ。』

妙に才気走ったそれとして、
子供の夢を壊すよな、可愛げのない答えこそ告げなかったものの、
それでも十分、ルフィ坊やを打ちのめした事実の発覚だったはず。
サンタクロースの正体へ、またもや膨れる坊やなのかと、
マキノがハラハラしもって耳をそばだてておれば、

 「クイスマスはな、サンタさんの生まれた日だ。」

  “あああ、やっぱり……。”

一年というブランクは長かったか、
きれいさっぱり忘れていたらしいルフィであり。
となると、
またぞろ昨年と同じよな葛藤抱える坊やとなるかと、
思わずの事、その胸元へ、
白い手を重ねて伏せてしまい、
祈るような心地でいたマキノさんだったのだけれども。


 「……そっか。ルフィんチはそうなのか。」


誕生日なら祝ってやらにゃあしゃあないわな。
そだろ? ケーキ買って、御馳走食べて。
サンタさんは忙しいから、
代わりにおめでとーって大騒ぎしてやんだぜ、と。
そうか、そっちはそれなりの理屈があっての解釈だったかと、
一年越しに合点がいったマキノさんだったところへと、

 「じゃあ、俺も祝ってやらんとな。」
 「うんっ、そうしろっ。」

よく気がついたな、これは褒美だと、
ケーキの耳を1本渡す。
甘いのはそれほど好きじゃあないゾロだったが、
可愛い坊やが大威張りで差し出すものだから、
可愛い幼なじみこそが大事だと、
素直に受け取りかじって見せて。
そのまま小さく微笑った少年剣豪の、
なんてまあまあ優しいことか。

 “子供って凄いなぁvv”

日頃からだって馬鹿になんてしてないけれど、
それぞれが一生懸命で、
ホント、馬鹿にしちゃあいけないなあと、
随分と冷たくなった川風に頬をなぶられながら、
そんな温かな想いを胸へと灯したマキノさんだったそうな。


  川表がキラキラ、さざ波に光る。
  茅の草むらが風にあおられ、カラカラとさんざめき、
  冬も間近と教えてくれる。
  小さな中洲の子供らも、
  川風に頬染め、元気元気で年を越す。


   どうか、楽しいクリスマスを……♪




    〜Fine〜  09.12.16.


   *カウンター 333、000hit リクエスト
     ひゃっくり様
       『大川の向こう設定で、かわいらしいクリスマス話を』


   *くいすますです、おのおのがた。
    子供の夢を壊さぬようにと、
    気をつけて頑張ったつもりでございます。

   *それにしてもカウンターの回転が早い。
    これも映画効果みたいですね。
    ウチはレビュー書いてなくてすんません。
(とほほん)
    クリスマスムードを吹き飛ばすほど、
    今年の劇場版のワンピースは勢いが違うのだそうで。
    初日は、当日に当日券が買えないほどだったんですってね。
    あちこちで感想のお声も聞かれるのへ、
    とんでもない大作だったらしいなぁと、
    羨望の貧乏揺すりなぞしている当方。
    劇場版は何たって船長がカッコいいもんねvv
    本誌の展開もクライマックスで、
    どんな年の瀬、年明けになるのやら。
    ワンピファンにはコミケも大祭と化しそうですねvv

  *拍手お礼に掲げた大元のお話はこっち。

  bbs-p.gif


戻る